Karvanとは、隊商を意味する"Caravan"の語源になった古ペルシャ語で、本来はメッカ巡礼など特定の目的のために集まった集団や、武装した集団である軍隊、騎兵隊などを意味した言葉だったそうである。
本作品では、過酷で広大な世界を、プレイヤーを含め様々なNPCがそれぞれの目的を持って集い、旅をしており、彼らの出会いによりドラマが生まれる。そんな無数のKarvanによって紡がれる冒険を想い『Karvan's』と命名した。

本作品の舞台は、中世のユーラシア大陸に似た架空の世界である。
世界には、様々な人種や文化の人々が暮らしているが、文明はまだ未熟であり、人々が過酷な自然に対抗する手段は、先人の僅かな知恵と神にすがるしかない、そのような世界である。
「生きる」事自体が冒険であるこの世界で、プレイヤーはあらゆる戦略を試みながら人生を切り開かねばならない。

本作品はシングルプレー専用アクションRPGとなるが、魔法もモンスターもストーリーも用意されていない。
プレイヤーは中世世界を生き抜く旅人の一人として人生を楽しむ、といった一見地味な作品となっている。
そのような本作品で追求したのは、プレイヤーのあらゆる判断に葛藤が伴い、その判断が確実に報われる事である。
葛藤はゲームという知的行為を成立させる最も重要な要素であり、本作品ではあらゆる局面において、葛藤を成立させ、常にプレイヤーの魂が試されるような作品を目指している。本作品においてプレイヤーの目的は英雄になることだけではないが、例えるなら、プレイヤーはストーリーによって英雄になるのではなく、プレイヤーの魂によって英雄と評価される、そういった作品を作る事が我々の目標である。

本作品における葛藤とは、Aを取るかBを取るかといった選択シーンを用意することではなく、最大限の「自由」をプレイヤーに与える事である。もし、ここで矛盾に感じるのなら考えてみて欲しい。自由とは何物にも縛られず、自分の意思や本能に従う事である。何をしてもいい、言い換えれば何をすればいいのか自分で決めなければならない、ということである。
もちろん、何もしたくないなら、そのまま朽ち果てるという選択も良いが、それは生存本能が許さないだろう。まずは「今日を生きる」ための糧を得なければならない、それを労働の対価として稼ぐか、盗むか、奪うか、プレイヤーはあらゆる可能性を検討し、判断しなければならない。そう、自由とは常に「葛藤」を孕んだものなのだ。そして人は自身の魂に問うのである、何が正義なのか。故に作品側で用意すべきは、可能な限り自由で矛盾のない基礎システムと、プレイヤーの行動を客観的に評価し、その影響を逐次世界に反映する仕組みである。

自由と葛藤を両立させるには、矛盾のある基礎システムは許されない。
日常生活で実感できる物理経験を再現するだけでも、かなり複雑な処理が必要となる。
本作品では、これらの複雑さを直感的に判断できるよう数値的特性とビジュアルとの矛盾を払拭することに拘っている。つまり怪力のキャラクタは、必ず大きな体格を持っているし、刃渡93cmの剣はゲーム内スケールで正しく93cmの長さを持つ。これにより、アイテムやキャラクタがどのような特性をもっているのか、ビジュアルだけで判断が可能になる。
具体的には以下の実装によりこれを実現している。
実際にゲーム中での再現例は以下のようになる。
このように、本作品では万能な戦略は存在せず、体格や目的といった状況に合わせて、プレイヤーが最適と判断した戦略をリニアに反映できる基礎システムを提供している。

プレイヤーが判断した様々な行動は、逐次、システムによって記録されており、それはプレイヤーの価値観として評価される。本作品では、常にランダム生成された数百人のNPCがプレイヤーと同じ時間軸でそれぞれの価値観、目的をもって旅をしている。彼らはキャラクタジェネレータによって世界中の様々な人種として再現され、プレイヤーが出会う人々は街の商人も、荒野の盗賊も全てNPCとして管理されており、彼らと価値観や、目的が一致すればプレイヤーとともに旅をする仲間となることもある。
初対面の彼らは、システムで評価されているプレイヤーの価値観と自身のそれを照らして、親近度合いを判定し、友好的、敵対的といった態度を見せる。悪人として評価され、秩序社会からはみ出したキャラクタでも、同じアウトローの中では尊敬されることもある。NPCはストーリーのない本作品において、ドラマを提供する手段として役割を与えられている。
そのような彼らが、プレイヤーの魂に共感し、あるいは反発し引き寄せられる仕組みを用意することで、漠然とした本作品おいてプレイヤーの魂を緩やかに、しかし確実に冒険へ反映させる事を可能としている。

本作品の特殊な概念として「ブリーディング」がある。その名の通り二人のキャラクタ間で交配を実行し、新しいキャラクタを生成する仕組みであり、交配の組合せは、交配情報としてブリードログに蓄積される。
プレイヤーはキャラクタを作る際、このブリードログに記録されている交配情報を選択してキャラクタを作成する。
最初は、交配情報が登録されていないので、両親を世界の代表的人種から選択した常識範囲のキャラクタしか作成できない。
本作品では筋力といったような明示的なパラメーターはなく、全てはビジュアルで表現される体格から算出される。頭の大きさは知識量、足の長さは移動速度、腕の太さは打撃力、といったような影響を与える。
つまりプレイヤーはキャラクタの体格を基準に戦略を練る必要があり、本作品において最も重要な要素となっている。そして、このキャラクタの体格を変更する唯一の手段がブリーディングだ。
プレイヤーは旅の途中で出会ったNPCと、特に親密になることで、交配情報をブリードログに登録でき、新しいキャラクタを作成する際に、この交配情報を選択して、より特化した体格で有利に冒険を進める事ができる。
ブリーディングはキャラクタジェネレータ53軸全てで実行されるため、伸びる特徴もあれば、その逆もあるだろう。計画的に何世代もかけて同じ特徴をもったNPCを探し、ブリーディングを繰り返す事で、いつか驚異的な体格をもった"超人"を作る事ができる。プレーして間もない頃は、世界中を旅して、特定の特徴をもったNPCを探す事が冒険の目的になるかもしれない。
体格が変われば、冒険の戦略も、アクションシーンでのプレーフィールも変わるため、常に新鮮さを失わず、リプレイの強い動機となるだろう。